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パトリス・ルコント

 ふと思い立って、クリストファー・ノーランの「バットマン・ビギンズ」「ダークナイト」「ダークナイト・ライジング」を続けて観たら、CGで大都市をぼんぼんと破壊する映像に食傷してしまい、全然種類の違う映画が観たくなり、パトリス・ルコントを観ることにした。で、アマゾンでいま売っているDVDを全部買って、一週間かけて片っ端から観る。何本かはこれまでに観たことがあったが、たとえば『髪結いの亭主』にしても、毛糸の海水パンツのエピソードは完璧に忘れていた。
 観たのは(製作年順)
 『仕立屋の恋』
 『髪結いの亭主』
 『タンゴ』
 『イヴォンヌの香り』
 『橋の上の娘』
 『フェリックスとローラ』
 『歓楽通り』
 『列車に乗った男』
 『親密すぎるうちあけ話』
 『ぼくの大切な友だち』
 これだけ観ておいて、こんなことをいうのもなんだが、私はパトリス・ルコントが一流の監督だとは思わない。どの作品も、どこか変だ。
 『仕立て屋の恋』『髪結いの亭主』『イヴォンヌの香り』『歓楽通り』『列車に乗った男』は悲劇、『タンゴ』『橋の上の娘』『フェリックスとローラ』『親密すぎるうちあけ話』『ぼくの大切な友だち』は一応ハッピーエンドだ。
 いちばんの駄作は『フェリックスとローラ』。シャルロット・ゲンズブールが主演している作品だが、つまらない。
 最初の『仕立て屋の恋』がいちばん暗いが、原作がシムノンであるせいか、完成度が高い。
男どうしの友情を描いた『列車に乗った男』『ぼくの大切な友だち』の他は全般的にカッコつきの「恋愛映画」だが、たぶんルコントという人は心の底から女性嫌いなんだろう。いや表面的には女好きで、心の底で女を憎んでいるタイプといったほうが正確だろうか。
 いちばん「ひどい」女は、『仕立て屋の恋』の女だろう。ろくでもない恋人を守るために、主人公を殺人犯に仕立てようとする。『髪結いの亭主』のマチルドは、いったいどんな人間なのか、ほとんどわからない、中身のからっぽの女である。『イヴォンヌの香り』のイヴォンヌも、登場人物のひとりから「あいつはその日暮らししかできない女なんだ」と言われている。平気で主人公を捨てて、くだらないおじさんについていく。『橋の上の娘』のヴァネッサ・パラディ(かつてのジョニー・デップの恋人)はいい男をみるとすぐに寝たくなる。
 ルコントが描きたいのは、そういう「宿命の女」たちがいかにわれわれ(一部の)男を魅了するかということである。いや実際、『イヴォンヌの香り』は傑作には程遠いが、妙に忘れられない、つまり、イヴォンヌという女性がどうしても忘れられない。

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